2014年7月27日日曜日

公開合評会 桑田学 『経済的思考の転回』


次週月曜8月4日、
公開合評会に参加します。

対象書は、若き思想家・桑田学さんの
の単著です。

桑田学 
『経済的思考の転回-世紀転換期の
          科学と政治をめぐる知の系譜』
                   以文社、2014年


  
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さっそく読みはじめているのですが、
書の冒頭から私は、いささかの興奮を禁じえませんでした。

古典力学から熱力学への視点の移行が、
社会エネルギー論をつうじて、同時代の経済的統治に
およぼしてきた影響の再考という、
みごとなまでにアクチュアルな桑田さんの理論的着眼に、
自分が昨年、短い文章にまとめた
セネガルのエネルギー問題のことも想起しました。

「ニュートン力学が世界を一元化するために捨象した摩擦や
空気抵抗、熱伝導や物質の混合というエネルギーと物質の
拡散・散逸が物理的自然の原理であることが改めて認められた[…]こうした自然界に対する科学的認識の変容によって、
自然における生命の位置が新たに問い直されるとともに、
経済社会もまた、自然界の不可逆的な変化から自立的に
運動する「永久機関 perpetual motion」、すなわち商品の生産と
消費の無限反復的な連鎖(閉鎖系)と見做すことが不可能となっていった[…]」 (同書18ページ)

「もともと熱の生む動力の原理的限界の問題をめぐってカルノーによって着手された熱力学の研究は、
クラウジウスによるエントロピー論の形成で一応の完成を見た。それは「可逆過程は現実の自然界にただのひとつも存在していない」という事実を突きつけるものであり、クラウジウスはそこに資本主義的な工業化の拡張の
本質的な制約があると指摘した」  (同書25ページ)

上の記述は、古典力学から熱力学への転回を、限界革命前後の経済学と照らしあわせる作業が試みられている本書の出だしにすぎません。
デュルケムの『社会分業論』を特異なかたちで継承したイギリス社会人類学の成立が、
経済学の限界革命と多少とも繋がれていた史的経緯を想うにつけ、
人類学的思考における「力」とは何であったのかをめぐる、私的な妄想は広がるばかりです。

合評会は公開です。ご関心のある方は、当日どうぞ御来場ください。

2014年7月15日火曜日

世界民族百科事典


文化人類学関連で、
新しい事典が刊行されました。

国立民族学博物館 編
『世界民族百科事典』丸善出版、2014年。

約800ページからなる本事典には、
刻々と変貌をとげていく
人類学的思考のアクチュアリティが
明確に反映されているように思います。


私は「表象と政治」の項目を担当しました。
(400字詰 約6枚相当)

目次構成など、詳細については
下記URLをご覧ください。
 

http://pub.maruzen.co.jp/book_magazine/sekaiminzoku_hyakka/index.html

2014年7月11日金曜日

粟飯原文子さんの仕事 - 『崩れゆく絆』/『褐色の世界史』




20世紀アフリカ文学不朽の傑作、
チヌア・アチェベの『崩れゆく絆』の新訳(光文社古典新訳文庫)を昨年発表された
粟飯原文子(あいはら・あやこ)さんに、先週、思いがけない場所で初めてお逢いしました。

早川書房の『黒人文学全集』を片っ端から読みあさっていた世代にはおなじみの
古川博巳氏による日本語初訳(門土社)からじつに36年ぶりの快挙であるばかりか、
訳注もふくめ、細心の配慮とともに粟飯原さんが達成された訳業です。

原書がおびる文学的想像力の誠実な伝達と、訳書の読み手にむけて添えねばならない訳注との
バランスは、アフリカ文学の日本語翻訳者がなかば宿命的に対峙せざるをえない困難のひとつです。
その困難をこえたときに、おそらく読み手は、過去のアフリカの姿とともに、
「今ここ」の物語を受けとることになるはずです。すくなくともそうであってほしいと私は願っています。
『崩れゆく絆』にひそむ「今ここ」の問題とは、だとすればなにか。ぜひご一読ください。

粟飯原さんが同じく昨年発表されたもうひとつの訳書は、
ヴィジャイ・プラシャド著 『褐色の世界史-第三世界とはなにか』(水声社)です。
第三世界の問題を再考するうえで、
依然として「ふたつのナショナリズム」のような
規範の境界線にたよって物事を説明しなければならない方法に、
私はかねて限界を感じてきました。
つねに二価的たらざるをえないその不安定さのなかでこそ、
社会的なものの「力」を文字どおり「力強く」考えていかねばならないとも
感じてきました。おそらくこうした問題意識にとって、
『褐色の世界史』が大きな支えになるような予感を抱いています。
粟飯原さんから贈っていただいたばかりのこの一書、
まずは私自身が精読しなくてはなりません。

2014年7月6日日曜日

東アジア人類学研究会


「東アジア人類学研究会」とは、
この地域をフィールドとする
新進気鋭の人類学者たちが
数年前から精力的に運営してきた組織です。

その栄えある第一回研究大会に
今週末、コメンテータとして参加させていただきます。

アフリカをフィールドとする日本の民族誌家には、
「いのちの翻訳」における第三の引照点として
つねに東アジアが埋め込まれていることを、
ちょうど私は、一文にまとめたばかりです。

きのうまで思いもよらなかった新たな知の横断が
生まれる瞬間を、いまから楽しみにしています。

この機会を提供してくださった
藤野陽平さんへの感謝をこめて