2015年5月25日月曜日

日本アフリカ学会 第52回学術大会

今年のアフリカ学会大会は、
犬山市で開催されました。

日本アフリカ学会第52回学術大会

2015年5月23日・24日
犬山国際観光センター

京都大学霊長類研究所・
公益財団法人日本モンキーセンター  共催

対象とする地域も時代もアプローチも異にした多彩な発表が今年も目白押しのなか、とりわけ心に残る報告にいくつか出会いました。

丸山淳子さん(津田塾大学)の発表「サンの集団間関係史と個人名の変化」は、一見、やや時代がかった社会人類学の論理展開をおもわせるタイトルながら、実際の内容はそんな予想を大きく覆す、エッジの効いたアクチュアルな問題提起-とくに1997年ボツワナの再定住政策がしずかに、しかし確実に惹起した命名法の社会的変化とその波紋-に裏打ちされた斬新なものでした。図表を用いた事実関係の積み重ねにもまったく隙のないパーフェクトな考察の運びはむしろ驚異的で、すっかり脱帽です。

澤田昌人さん(京都精華大学)の発表「ザイールからコンゴへ  国家の変化と継承」は、〈failed state〉の形容をキーワードとしながら、コンゴ民主共和国(旧ザイール)の国家-社会関係をめぐる過去と現在の実像にせまる、貴重な考察提示でした。長期にわたりアフリカの一国家をひたむきに見守ってこられた澤田さんが現地報道の日付を逐一添えつつ示してくださった個々の内政トラブルは、ザイールからコンゴへの推移のなかで変化したものと変化しなかったものを、事実の重みをつうじて聴き手に突きつける力に満ちていました。キンシャサの街中の風景が、自分の見てきたアビジャンやダカールの風景と奇妙に混じりながら、犬山の会場に突然丸ごと出現したような強烈な錯覚に襲われました。

中尾世治さん(南山大学大学院)の発表「植民地行政のイスラーム認識と対策の空転-ヴィシー政権期・仏領西アフリカにおけるホテル襲撃事件をめぐって」は、歴史の闇にいちどは葬られたかにみえる1941年オート・ヴォルタ(現ブルキナファソ)の「ボボ・ジュラソ事件」の原像を、数少ない先行研究に圧倒的なアーカイヴ渉猟の成果を注入しながら、丹念に掘り起こそうとする試みでした。発表後に中尾さん御本人からいただいた連絡によれば、この事件は、その後、独立前夜に表面化した親植民地派、RDA派双方のイマーム間の角逐にも、歴史の底流として流れている由。対「イスラム系テロリスト」のロジスティックな防疫線がトラディショナル・ドナーの手で西アフリカに設定されかつ強化されつつある2010年代のジオポリティクスに照らしただけでも、重大な意味を孕んだ歴史の深奥の「ヤマ」が、気鋭の若手研究者による努力でいま掘り当てられようとしている、そのように直感しました。