2016年9月18日日曜日

鷹木恵子 『チュニジア革命と民主化』


長年チュニジアをフィールドとされてきた鷹木恵子さんが、このほど新著を発表されました。

鷹木恵子 『チュニジア革命と民主化 - 人類学的プロセス・ドキュメンテーションの試み』
                                            明石書店、2016年9月10日発行。

「本書は、「アラブの春」の起点となったチュニジア革命とその後の民主化移行過程に焦点をあて、人類学的現地調査を踏まえて、ほぼ五年にわたるその経過を、プロセス・ドキュメンテーションの手法を用いて描いたモノグラフである」

序章冒頭でこう記したのち、著者は2010年12月から翌11年1月のベンアリー政権にいたるチュニジア革命と、以後のチュニジアで継続した民主化過程について、人類学者/民族誌家ならではの厚い記述をかさねていきます。じつに全530ページの大著です。

2014年に、新憲法の制定と自由選挙をへた大統領の就任がなされ、革命の目標だった政治の民主化移行が達成されたチュニジアでは、 その一方で、翌15年にテロ事件が国内で続発したように、経済面での民主化にいまだ難題を抱えている現実を著者はまず指摘します。

チュニジア革命と以後の民主化プロセスについてとりわけ注目されるのは、それが全体として、「国民のほとんどを巻き込んでの、まさに参加型での壮大なる社会開発プロジェクトであった」という点である。その間にチュニジアで経過した五年あまりの歳月を一連の開発プロセスとして柔軟に把握するためには、プロセスの多面性、多声性、多所性を意識しながら、当初は予測しえなかった事象の発生もプロセス全体のうちで積極的に跡づける努力が必要になる。既存の著書や論文、新聞や雑誌記事、インターネット情報といった文献資料にくわえて、著者自身のフィールドワークにもとづく観察記録や聞きとり調査の情報も資料に用いながら本書で提唱される手法こそ、副題にも記された「プロセス・ドキュメンテーション」ということになります。

本書「あとがき」では、著者の鷹木さんが1990年代初頭以来、チュニジアの調査生活で垣間見てきた「ベンアリー体制の深い闇」をめぐる印象的なエピソードが紹介されたのち、革命後のチュニジアで進行する現実の速度にウォッチャーのひとりとしてどう対応すればよいのかという戸惑いの思いが綴られます。西アフリカ研究者にあっても、とても他人事とは思えない述懐です。

「[…]多声的に語られる同一の現象、相変わらず同時多発的に頻発している異議申し立て運動など、この先、どのような方向へと向かうのかが不透明であるなかで、それらを一体どのように捉え、描けばよいのか、暗中模索は続いた」

その結果、鷹木さんは、多面的で多声的で多所的な現象を「できるだけそのまま」に描きたいと考えるようになっていきました。ひとりのフィールドワーカーが当のフィールドで生きた歳月そのものを、まさにそれにかなう分量で描ききった作品なのだと思います。

アラブ革命の延長線上で語られることもあるセネガル・ヤナマール運動の2011年を、『火によって』、あるいは『暗闇のなかの希望』によって想像すること