2017年10月19日木曜日

スーザン・バック=モース 『ヘーゲルとハイチ』

『ベンヤミンとパサージュ論』など、フランクフルト学派研究で知られるバック=モースの新訳が、このほど刊行されました。

スーザン・バック=モース
『ヘーゲルとハイチ -普遍史の可能性にむけて』
岩崎稔・高橋明史 訳、法政大学出版局、
2017年9月28日発行。

「[…]主と奴の論理は、ヘーゲルの思惟全体のなかでけっして周辺的な観念ではなく、むしろその「弁証法」の祖型であると言ってもいい。それにしても、哲学書のなかにいきなり「主」や「奴」という具象性を帯びた観念が登場してくることは普通ではないし、物語的な意匠のために、この部分はひときわ多様な解釈が可能になった。
                 […]
バック=モースの論じ方は、まさに彼女自身が述べているようにミステリー小説の手法とも見える手際である。現場に転がっていながら、不思議なことに誰にも気づかれないでいる、あるいは黙殺されたままでいる証拠がつなげられ、そこから大きな共犯関係の構図が浮かび上がる。第一に、『精神現象学』が書かれた時期こそ、ハイチでの黒人奴隷革命のクライマックスであった。このアフリカ、中南米、ヨーロッパをつなぐ大西洋の近代奴隷制は、近代における主と奴の過酷で極限的な形態であり、
                […]
ハイチでの奴隷の叛乱が、なぜ直接に言及されないのであろうか。
これはたんなる個人の性向ではなく、ヨーロッパの知的な営みが、
フィルターにかけるようにして特定の問題を構造的に排除しているからである。」  (岩崎稔 「訳者解題」より)